BANQは新たな金融サービス「ほぼ日払い君」で給料日の概念を再定義する。

Munetaka Takahashi

株式会社BANQ 代表取締役CEO 髙橋宗貴 × Longine Fintech取材班

今回は、株式会社BANQ 髙橋宗貴 代表取締役CEOに、同社の給料オンデマンドサービス「ほぼ日払い君」の取り組みと将来ビジョンについて伺いました。

読者に伝えたい3つのポイント

  • BANQは、給料オンデマンドサービス「ほぼ日払い君」を主力事業に、2015年に創業されました。
  • 2016年からいくつかの企業に福利厚生サービスの一環として導入し、本格展開に向けての実験を行っています。
  • 大手金融機関が直接的には参入しづらい分野であることや、手数料ビジネスの重要性の高まりから、既存の金融システムと協業のチャンスが広がることが期待できます。

給料日の概念を“ディスラプト”する「ほぼ日払い君」

Longine Fintech取材班(以下、Longine):まず、今年から始められた給料オンデマンドサービス「ほぼ日払い君」について教えてください。

株式会社BANQ 髙橋宗貴代表取締役CEO(以下、髙橋):「ほぼ日払い君」は、従業員が給料日を待たずに、その日まで働いた分の給料の一部を現金化できるサービスです。仮に今、急ぎで2万円が必要となった場合、夕方6時までに「ほぼ日払い君」に申し込むと、翌朝9時には、システム手数料と銀行の振込み手数料が差し引かれた金額が、いつもの給料口座に振り込まれることになります。

「ほぼ日払い君」のスマホアプリにアクセスすると、毎月働いた給料の最大70%までが蓄積されていて、それを利用する仕組みです。このサービスを使うことで、従業員は給料の受け取りを最長55日程度短縮することができます。

つまり、自分の働いた給与を必要に応じて受け取れることを可能にするのが「ほぼ日払い君」です。今風な言い方をすれば、「給料日の概念をディスラプトするサービス」ということになります。

Longine:利用可能額は、スマホやパソコンのアプリから見えるのですか。

髙橋:そうです。企業側の勤怠システムと弊社のシステムを連携させて、利用者がスマホやPCのアプリ上で毎日更新される利用可能額を確認できるようになっています。

Longine:なるほど、急な出費があった場合に便利ですね。でも、消費者金融とはどこが違うのでしょうか。

髙橋:根本的に違うのは、このサービスは、借金ではなく自分の給料の前払いであるということです。実際にサービスを開始してみると「借りる」というメンタルで使っている人が意外に多いことに驚かされた面もあります。実際は企業の未払い給与はバランスシート上では負債の部に記載され、従業員にとっては労働債権としての請求権をもつ資産です。

その従業員の資産を流動化するというのがこのサービスの本質的な価値であり、それが利用者にとって新たなオプションとなることを目指しています。また、多重債務を抱えたり、延滞した場合に信用情報リストに載ってしまい、その後ローンを組むことが難しくなったりという厄介な問題を回避することができます。

Longine:利用者の反応はいかがでしょうか。

髙橋:これまでのところ、若い方ほど反応が早いですね。UI(ユーザーインターフェース)の改善は必要かもしれないですが、もっと中高年層にも試してほしいですね。そのための改善は今後の課題の1つです。意外にニーズがあるのではと考えています。

Longine:パートやアルバイトでも使えますか。

髙橋:もちろんOKですし、多数のバイトを使っている業種でのニーズは大きいという感触を得ています。バイトですと、月末締めの15日払いが一般的です。バイトをしている若い人の中には、働いた分の給与をすぐに必要としている人が多いので、ニーズは大いにあると思います。

また、バイトを大量に採用している飲食チェーンやコンビニなどでは、このサービスの導入で求人の差別化が可能になります。実際に、新規人材募集で大きな効果があったと導入企業の経営者から直接感謝の言葉をいただくこともあります。将来的には「ほぼ日払い君」を導入していないと、人を集めにくくなるということになるかもしれませんね。

Longine:外国人労働者についてはいかがでしょうか。

髙橋:外国人の方は消費者金融などの利用に制約があるため、こうしたサービスのニーズは大きいと考えています。まじめに働いているにも関わらず、与信などの制約によって急な出費に対応するのが困難な方々の解決策のオプションになれればと思っています。

株式会社BANQ 髙橋宗貴 代表取締役CEO

企業の福利厚生サービスとして普及を目指す

Longine:今後、どのように普及させていくお考えですか。

髙橋:まずは、「ほぼ日払い君」を福利厚生サービスとして導入していただける企業に直接アプローチして拡大を目指します。つまり、BtoBtoCのアプローチですね。採用するかどうか決めるのは企業ですので、一般消費者向けに認知度を高めるための広告費はほとんど必要ないと考えています。

Longine:どのような企業をターゲットにされているのですか。

髙橋:今年初めからいくつかの企業と業務委託契約を結び、本格展開に向けて実験的なサービスを開始していますが、今は実験段階ですので様々な企業にアプローチしています。

弊社の立場からすると、与信先は従業員個人ではなく企業になりますので、事業内容や財務諸表を確認させていただいて、与信面で問題がなければ規模や業種を問わずサービスを提供できます。

Longine:ということは、いったんは御社が前払い分を立て替えるという仕組みなのですか。

髙橋:その通りです。弊社が企業側に対して前払い分を立て替えます。そして、給料日には立て替え分が、企業側から弊社に支払われることになります。つまり、貸倒れリスクは弊社が負うことになります。

Longine:ということは、御社のデットキャパシティが重要になりますね。

髙橋:はい。小規模の実験サービスができるレベルの資金は十分に確保していますが、弊社のバランスシートを使うため、現状では、それほど一気に急拡大することはできません。

まずは様々なデータを集め、基本的な仕組みの検証を終えたら、次は銀行やノンバンクなどの金融機関で今後手数料ビジネスの拡大を考えていらっしゃるところとパートナーシップを組んでいきたいと考えています。

Longine:御社の借入金をセキュリタイズするのではなく、バックファイナンス的に、まさにオンデマンドで資金を調達できるところが理想的なパートナーとなりそうですね。

髙橋:なるべく多くの金融機関などと組んでいく必要があります。弊社は貸金業ではなく、手数料ビジネスですが、金融機関にとっても手数料ビジネスは益々重要になってきています。ただし、大手金融機関などはファーストムーバ―にはなりにくい、つまり、自分たちで先陣を切ってこうしたビジネスを立ち上げて行くとは考えにくいので、協業相手としてコンフリクトが発生する可能性は今のところ少ないと見ています。

「ほぼ日払い君」が目指すこれからのイノベーション

Longine:「ほぼ日払い君」が利用者にとってさらに使いやすいものとなるためには、今後どのようなノベーションが必要ですか。

髙橋:将来は現金だけではなく、ポイント、電子マネー、仮想通貨も扱えるようにしたいですね。たとえば、オンデマンドの給料を使って、そのままコンビニで買い物をしたり、eコマースサイトで決済をしたりといった使い方です。

フィンテックによるイノベーションの先にあるのは金融システムの個人へのパワーシフトであり、ユーザーにとっての利便性向上や金融コスト負担減ですよね。そのためには、ブロックチェーンやプルーフオブワークなどの低コストで強固なセキュリティを持つテクノロジーやシステムなどをうまく応用していく必要があると考えています。

多様性を創造することがBANQの目指すフィンテック

Longine:ところで、なぜBANQを起業されたのでしょうか。

髙橋:BANQは、2015年10月に“機が熟した”と考えて創業しました。英会話スクールGABAでの経営や、その後の日本、カナダ、台湾でのスタートアップ投資家としての経験などを通して、起業が上手くいくための優先順位として、チーム>タイミング>ビジネスモデル、だと信じるに至りました。今回の起業はこれらの条件が揃ったと確信したからです。

Longine:それがフィンテック分野だった理由を教えてください。

髙橋:テクノロジーの進化によって、あらゆる分野で企業から個人へのパワーシフトが起きていますが、資本主義の根幹である金融システムも例外ではなく、まさにパワーシフトの入口に立っていることに気付いたためです。

また、フィンテック、あるいはオルタナティブ・ファイナンスの分野は、銀行などの大手金融機関が先行者として直接的に参入しにくいため、スタートアップにとっては協業のチャンスが豊富で、とても魅力的に思えたからです。

また、これはフィンテックとは直接関係のない話ですが、私個人の考え方として、多様性から生まれるオルタナティブな選択や行動が社会にポジティブなインパクトをもたらすような世界を目指したいというのが根底にあり、ビジネスを通してそれを実現していきたいと思っています。

Longine:なぜ、多様性が大事と考えるようになったのでしょうか。

髙橋:2000年代のベンチャーでの経験や、その後の海外生活を通して、出る杭は打たれるという言葉に代表されるような、同調圧力が強く多様性を受け入れない日本社会には閉塞感を感じていました。

その後2011年に東日本大震災が起き、当時はカナダに住んでいいたのですが。それをきっかけにアジアに軸足を移すことを決意しました。その頃、日本が良い方向に変わっていくために必要なことは何か、色々な人と精力的にディスカッションを行ったのですが、そこで改めて多様性の大切さを認識しました。

少し抽象的な言い方ですが、私の中では金融資本や人材、技術、サービスといった広い意味での様々な資産を日本という小さな枠の中で固定化してしまっていることが、日本の社会や経済の停滞の根底にあるのではないかという問題意識があります。

反対に、その枠をアジアや世界に広げてそれに流動性を与えることができれば、多様性が生まれ、それにより日本社会が活性化して、より良い方向へ動いていくのではないかという仮説を持っています。また、そこにオルタナティブ・ファイナンスの根幹があるのではと考えています。

やり方次第でもっと便利に使いやすくできる、広い意味での金融サービスはたくさんあります。ユーザー目線でのサービスの開発と改善を最重要課題とし、アジアや世界のマーケットでも戦える企業を目指して今後の事業に取り組んでいきたいと考えています。

Longine: 本日は、お忙しいところ大変ありがとうございました。

髙橋:こちらこそ、ありがとうございました。

オスティアリーズは着信認証でより高い安全性と利便性をネット取引にもたらす

株式会社オスティアリーズ 代表取締役 大野祐治 × Longine FinTech取材班

今回は株式会社オスティアリーズの大野祐治代表取締役に、同社の展開する電話発信認証の技術と今後の事業展開についてお伺いしました。

読者に伝えたい3つのポイント

  • オスティアリーズは、インターネット取引の本人認証において、従来のIDとパスワードに加え電話回線を経由する着信認証の特許を取得し、普及を進めています。
  • 着信認証は公衆回線で本人の電話番号を確認するため、なりすまし被害を防止します。しかも、事業者やユーザーの負担も少なくて済みます。
  • 着信認証は金融・医療などセキュリティニーズの高い領域やシェアリングエコノミー領域など、さまざまな分野で普及の可能性があります。

オスティアリーズが進める着信認証とは

Longine Fintech取材班(以下、Longine):初めに御社の設立経緯を教えてください。

オスティアリーズ大野祐治代表取締役(以下、大野):弊社は2014年4月に創業しましたが、2013年11月に取得した特許がその基盤になります。その特許(国内外取得済)は、現在の主力事業である「着信認証」の仕組みに関するものです。

Longine:どのような仕組みでしょうか。

大野:例としてスマホを使ってECサイトでショッピングする場合を考えてみましょう。従来の仕組みであれば、ユーザーはスマホに個人のIDとパスワードを入力し、サービス事業者にインターネットを経由してデータを送り、サービス事業者に本人確認をしてもらいます。そしてそのまま買い物が成立するという流れになります。

一方、着信認証ではあらかじめ個人情報に電話番号を登録してもらいます。そしてサービス利用時には、これまでの認証に加えて、もう1ステップ手続きをします。まず、利用者がIDとパスワードを入力し、サービス事業者にインターネット経由でデータを送ります。すると利用者にランダムの050で始まる電話番号が表示されます。利用者はこの番号に電話をかけることで認証を完了します。スマホであれば画面をタップするだけです。電話は、つながると(認証作業が終わると)すぐに切れて、表示していたサービスサイトへ戻ります。

Longine:御社は着信認証でどのような機能を果たすのですか。

大野:ユーザーがサービス事業者にIDとパスワードを送り認証を求める際、都度、ランダムにサービス事業者へ050番号を発行し、これがユーザーに通知されます。そしてユーザーからその050番号に電話がかかった時、ユーザーのスマホの発信番号が事前にユーザー登録された電話番号と一致することを判定し、結果をサービス事業者に通知します。

Longine:着信認証を導入するメリットを教えてください。

大野:従来の認証はインターネット網だけを媒介にしており、IDやパスワードのなりすましリスクなど安全性に課題があります。しかし、着信認証であれば、仮になりすました人物が指定された050番号へ電話をかけると、その人物の電話番号が本来のユーザーの電話番号と異なることが分かるため、認証されないということになります。つまり、なりすまし認証を成功させるには、単にIDやパスワードをネット上で盗むだけではなく、電話を物理的に盗まなければならないのです。この場合の電話とは携帯電話に限らず固定電話、IP電話、光電話、PHSすべての発信番号通知可能な電話になります。ちなみに世界の10か国で日本キャリアの携帯電話、調査実施国の固定電話、携帯電話でも認証テストを行い、実証テスト済みです。

また、既にある電話回線を使うため追加コスト、維持コストが大幅に少なく汎用性も高いですし、ユーザーから見ても、指定先へ電話をかけるだけですので、アプリのダウンロードや新たなデバイスの保有や認証の手間、そして何より特別な説明や知識も必要ありません。インターネット利用者で電話をかけたことがない利用者はいませんから。金融取引などクリティカルな取引であるほど、このような二重のロックが望ましいはずです。また金融取引でよく使われているトークンやマトリックス認証よりもユーザーの操作は簡便だと思います。

株式会社オスティアリーズ 大野祐治 代表取締役

着信認証で、すべてのインターネットサービスの「門番」になる

Longine:具体的な導入事例でどのような効果が出ているのでしょうか。

大野:あるポイントサービス関連の事業者様では、会員登録とポイント交換の場面でご利用いただいています。このケースでは、なりすましによる不正なポイント交換を防止していることはもちろんですが、ユーザーとユーザーの電話番号を紐付けることで、同一ユーザーが複数アカウントを作成できないようにしたり、海外からのアカウント登録の制限も可能になっています。さらに、本人確認手続きが電話で済むため、手続きの軽減が図られるケースもあります。インターネットサービスは一度始めると日本のみに留まらず海外在住の日本人から海外の方まで利用する可能性があり、日本のインフラを前提に認証を考えたり、日本国内だけの認証補助コストで考えるのは間違えていると思います。

Longine:大野さんは、どうやってこのサービスの着想を得たのですか。

大野:私はもともとプログラミングのバックグラウンドがあるのですが、PCでのインターネット、モバイルでのインターネットが普及する過程で、インターネットサービスプロバイダー、携帯コンテンツ会社などの企業でさまざまな企画に携わってきたと同時に、色々な認証技術を利用してきました。この着信認証は、もともとリアルのサービスの事前予約をした利用者が人を介せずに本人認証を行う効率的な方法はないかと考えたところがきっかけです。たとえば、宅配業者の再配送リスクを近くのコインロッカーに入庫すれば再配送コストが大幅に削減する方法に、配送用送付状に記載の電話番号による認証として考案しました。結果的にネットサービスでも同じ課題があることに気付き、特許の範疇を拡げました。本人認証は最新の技術に依存するよりも、既存の普及したインフラを利用して、安全はもとより安価かつ利用者のリテラシーに依存しないことが大事だと考えた結果です。

Longine:ちなみに社名のオスティアリーズとはどんな意味があるのですか。

大野:これは教会を守る門番という意味の古い英語で、古い技術(電話網)ですべてのインターネットサービス(聖域)の門番達になりたいという意味を込めています。また「聞継ぎ」という意味もあり、着信認証の結果をサービス事業者に聞継ぐという事業モデルとの関係も示しています。

Longine:今後の事業の抱負を教えてください。

大野:会員ビジネスをしている企業であれば必ず不正アクセス問題に課題を感じているはずですので、着信認証をしっかり普及させていきたいと思います。これまで真剣に多要素認証を検討しているサービス事業者様では失注というのはありませんので、自信を持っています。特に金融、医療などの個人情報がとても重要な分野、および越境ECなどでニーズが大きいと考えます。また、シェアリングエコノミー関連(レンタサイクルや民泊)など、利用者への事前登録を強いることなく効率的で安全な認証システムを求めている領域においても着信認証のニーズが広がりそうです。

Longine:着信認証が将来どう世界を変えていくとお考えですか。

大野:電話番号は、唯一グローバルにユニークに割り振られた番号です。着信認証が普及すると、電話番号をベースとしたグローバルなビッグデータを作ることが可能になると思います。電話番号ごとに認証履歴を残すことで、その電話番号に紐付く信用情報や個人の嗜好が捕捉できたり、その利用履歴を基に電話番号ID化や簡易与信や決済が可能になり、新しいビジネスが創出できると考え、楽しみにしています。

Longine:本日はお忙しいところありがとうございました。

大野:こちらこそありがとうございました。